デスクワーク、スマートフォンの長時間使用…現代人にとって「肩こり」はもはや日常になってしまっています。
しかし、その肩こりを「単なる疲れ」と放置してしまうと、とても厄介なことになってしまいます。
実は、慢性的な肩こりは、頭痛やめまいといった自律神経の不調を引き起こし、最終的には「頚性うつ(けいせいうつ)」という深刻な精神症状に繋がる危険性が指摘されています。
本記事では、「たかが肩こり」と見過ごされがちなこの症状が、なぜ危険な病態に進行するのか、
そして最も恐ろしい「認識の麻痺」について深掘りし、予防と対策をお伝えします。
1. 頚性うつとは何か? 精神だけではない「うつ」の正体
一般的に「うつ病」と聞くと、精神的なストレスや心の問題が原因だと考えがちです。
しかし近年、脳神経外科医の松井孝嘉氏によって提唱されたのが、首の筋肉の異常(首こり・肩こり)が原因で発症する
「頚性神経筋症候群(首こり病)」
そしてそこから派生する
「頚性うつ」
です。
頚性うつは、主に以下の3つの要素が複雑に絡み合って発症します。
- 首周りの筋肉の異常(首こり・肩こり)
- それに起因する自律神経失調症状(頭痛、めまい、吐き気、動悸、倦怠感、不眠など)
- 上記に伴う精神的不安感やうつ症状
特に、首の後ろ側には、脳へ向かう重要な血管や、内臓の働きをコントロールする副交感神経(迷走神経)などが集まっています。
長時間の不良姿勢(猫背、スマホ首など)によって首や肩の筋肉が硬直すると、これらが圧迫され、自律神経のバランスが崩れます。
副交感神経の働きが阻害され、常に交感神経が優位な「戦闘モード」の状態が続くと、身体は休めず、様々な不定愁訴(原因不明の体調不良)が発生します。
この身体の不調が、精神的な不安定さや意欲の低下を引き起こし、「うつ状態」となって現れるのが頚性うつです。
通常の精神科的うつ病と異なり、
「理由のない悲しみ」が少ないことが特徴
とされますが、全身倦怠感や集中力欠如が強く出るケースが多く、一部では精神性うつよりも自殺リスクが高いという指摘もあり、極めて重大な病気として認識すべきです。

2. 肩こりを放置すると「危険」である理由
「肩が凝っているくらいで大げさな…」そう思う方もいるかもしれません。しかし、肩こりを放置することがなぜ危険なのか、そのメカニズムを見ていきましょう。
放置による「認識の麻痺」が最も怖い
最も危険なのは、肩こりの慢性化に伴う「認識の麻痺」です。
肩こりが始まると、筋肉の緊張による血行不良が発生し、疲労物質が蓄積します。
これが痛みや不快感として認識される「こり」の初期段階です。
しかし、この状態が数週間、数カ月、数年と続くと、人間の身体は常に存在する「不快な刺激」に対して順応し始めます。
痛みの閾値の変化
常に刺激があることで、神経系が過敏化する一方、脳が「この状態が普通だ」と認識を書き換えてしまい、以前よりも強い刺激でないと「こり」として認識できなくなります。
自覚症状の消失
本人は「最近肩こりが治った気がする」と感じていても、実際には筋肉は硬直したまま、あるいはさらに悪化しているにもかかわらず、脳がその不快感を無視する状態に陥ります。
この「無自覚な重度の肩こり」こそが落とし穴です。
自覚症状がないため何の対策も取られず、水面下で首の筋肉の緊張は進行し、血管や自律神経への圧迫が静かに深刻化していきます。
進行した自律神経異常が、突然の異変を招く
認識の麻痺が進んだ結果、自律神経のバランスはさらに崩れ、ある日突然、強烈な頭痛、耳鳴り、めまい、あるいはパニック障害のような激しい不安感、そして重度の倦怠感を伴う「頚性うつ」として症状が噴出することがあります。
本人は「特に肩こりはないのに、急に体がおかしい」と感じるため、精神的な病だと誤診されやすいのです。
3. 「命取りの肩こり」から身を守るために
頚性うつを予防し、心身の健康を守るためには、もはや「肩こりを感じたら対処する」では遅すぎます。
1. 姿勢の徹底的な見直しと習慣化
肩こりの最大の原因は、頭(約5kg)を前に突き出す不良姿勢(猫背、ストレートネック)です。
- PC作業: 目線とモニターの高さを合わせ、顎を引いて、背筋を伸ばす。
- スマホ: 極力、目線より上に持ち上げて操作し、首を下に向けない。
- 休憩: 30分~1時間に一度は立ち上がり、首と肩を大きく回す。
2. 「無自覚なこり」をチェックする
自覚がなくても、以下のチェックを行いましょう。
- 触診チェック: 首の後ろの付け根から肩にかけての筋肉を指で押してみる。強い硬さやしこりのようなもの、圧痛があれば、無自覚でもこりは進行しています。
- 可動域チェック: 首を大きく左右に倒したり、回したりして、左右差や動きの詰まりがないか確認する。
3. 専門家への相談
肩こりに加えて、
・慢性的な頭痛、めまい
・不眠
・全身の倦怠感
・集中力の低下
・原因不明の不安感
など、不定愁訴が続く場合は、「たかが肩こり」と軽視せず、専門の病院や鍼灸院等にご相談ください。
早めの対策を取ることで、後々の大きな不調に悩まされることがなくなります。
まとめ
「肩こり」は、単なる筋肉の張りではなく、あなたの健康を静かに蝕む危険信号です。
放置は、自律神経の乱れ、そして「頚性うつ」という恐ろしい病態に直結します。
特に、慢性化による認識の麻痺は、治療のタイミングを失わせる最大の敵です。
「こりを感じないから大丈夫」ではなく、「こりを感じなくなっているからこそ危険」という認識を持ち、日々のセルフケアと専門家への相談を怠らないことが、心と身体の健康を守る唯一の方法です。
今日からあなたの「首」と「肩」の状態に、真剣に向き合ってみませんか?
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