経筋学考察#3 肩こりを経筋から考える――首・背中・腕のつながり

はじめに

肩こりがあると、首や肩の筋肉ばかりに意識が向きがちです。
しかし、肩の動きには、肩甲骨や背中、胸郭、腕の筋肉なども関係しています。

首や肩がこるだけでなく、背中まで張る、腕を上げにくい、肩甲骨の周辺が痛む。
このような症状を経験したことはないでしょうか?

東洋医学の古典『黄帝内経・霊枢』の「経筋篇」には、肩や首のこわばり、痛み、動かしにくさに関する記述があります。

今回は、経筋の考え方を手掛かりに、肩こりを首や肩だけの問題として捉えず、背中や腕の動きも含めて考えてみます。

1.古典の経筋篇には肩の症状が記されている

『黄帝内経・霊枢』第十三篇「経筋」には、十二経筋それぞれの走行と、関連する症状が記されています。

例えば、足太陽経筋には「項筋急(こうきんきゅう)」「肩不舉(けんふきょ)」という記述があります。

「項筋急」は首の筋のこわばり、「肩不舉」は肩を挙げられない状態を表します。
また、手陽明経筋にも「肩不舉」「頸不可左右視」とあり、肩の挙上制限や首を左右に動かしにくい状態が記されています。

ここで注目したいのは、肩の症状が肩だけに限定されず、首などの症状と併せて記述されていることです。

ただし、これは古典医学における病証の記述です。
現代医学の特定の筋肉や疾患と、そのまま一致するわけではありません。

2.肩こりに背中や腕の不調が伴うのはなぜか

現代の解剖学から見ると、肩は単独で動く構造ではありません。

腕を上げるときには、肩関節だけでなく肩甲骨も動きます。その動きには、僧帽筋、前鋸筋、菱形筋、三角筋、腱板を構成する筋肉など、複数の筋肉が関わっています。

背中の広背筋も腕の動きに関係し、腕を引き下げたり、後方へ動かしたりする働きを担います。

このため、肩の痛みや動かしにくさを考える際には、痛みのある場所だけでなく、肩甲骨や胸郭、腕の動きも確認することが重要です。

例えば、次のような経験はありませんか?

  • 首や肩がこるだけでなく、肩甲骨の内側から背中まで張る。
  • 洗濯物を干すときや高い棚の物を取るとき、腕を上げにくい。
  • 腕を動かすと、肩だけでなく脇や背中にも違和感がある。
  • 首を左右に向けると、肩や肩甲骨の周辺まで突っ張る。

こうした症状が同時に現れる場合、首や肩だけでなく、肩甲骨や胸郭の動き、周囲の筋肉や関節の状態にも目を向ける必要があります。

ただし、症状の組み合わせだけで、原因となる筋肉や組織を特定することはできません。

3.経筋の考え方から肩こりを捉える

経筋は、十二経脈に関連する筋の系統として古典に記されています。
その走行には、手足から体幹、首などへとつながる記述があります。

例えば、手太陽経筋は腕から腋の周辺、肩甲骨、首へと向かう走行が記され、手陽明経筋にも肩甲骨や脊柱の周辺に関係する記述があります。

このような古典の記述を踏まえると、肩の症状を局所だけでなく、関連する部位や動きと併せて観察する視点が得られます。

例えば、肩こりがある人に対して、首や肩の状態だけでなく、肩甲骨の動き、腕を上げたときの違和感、背中の張りなどを確認することです。

経筋の考え方を臨床に取り入れる意義は、古典の走行を現代の筋肉に機械的に当てはめることではありません。
身体を部分ごとに切り離さず、症状と動作の関係を広く観察するための視点として考えることができます。

4.広背筋や上腕三頭筋も肩こりに関係するのか

広背筋は背中から上腕骨につながり、腕を引き下げたり、後ろへ動かしたりする働きを持ちます。
そのため、腕の動きに制限がある場合には、肩関節や肩甲骨の状態と併せて広背筋などの働きを評価することがあります。

一方、上腕三頭筋は主に肘を伸ばす働きを担います。肩をまたぐ長頭は肩関節の動きにも関係しますが、肩こりがあるからといって、上腕三頭筋が原因であるとは限りません。

重要なのは、特定の筋肉を原因と決めつけるのではなく、どの動作で症状が出るのか、どの範囲に違和感があるのか、関節や神経などに問題がないかを含めて考えることです。

経筋の走行と現代解剖学上の筋肉には、比較できる部分があります。しかし、経筋が広背筋や上腕三頭筋などの特定の筋肉と同一であることは証明されていません。

5.肩こりを考えるときに大切なこと

肩こりや腕の動かしにくさには、筋肉の負担だけでなく、肩関節の疾患、腱の障害、頸部の神経の問題などが関係する場合もあります。

強い痛み、外傷後の痛み、腕の感覚低下や持続するしびれ、急に腕を動かせなくなった場合などは、自己判断で対処せず、医療機関で評価を受けることが大切です。

経筋の考え方は、肩こりを理解するための一つの伝統医学上の枠組みです。現代医学による評価と区別しながら活用することで、痛む場所だけでなく、身体の動きや関連する症状にも目を向けることができます。

まとめ

『黄帝内経・霊枢』の経筋篇には、肩の挙上制限や首のこわばりなど、肩や首の動きに関係する症状が記されています。

現代の解剖学でも、肩や腕の動きには肩甲骨、背中、胸郭、複数の筋肉や関節が関わることが分かっています。

肩こりを考える際には、首や肩だけでなく、背中の張りや腕の動かしにくさにも注目することが大切です。

ただし、症状が広い範囲に現れることと、経筋の走行が現代の筋肉や筋膜と一致することは別の問題です。

古典の記述と現代医学の知見を区別しながら、身体全体の動きと症状の関係を丁寧に観察すること。それが、経筋の考え方を現代の鍼灸臨床に生かすための重要な視点です。

参考文献

  1. 『黄帝内経・霊枢』第十三篇「経筋」。
  2. NHS. “Shoulder pain.” https://www.nhs.uk/symptoms/shoulder-pain/

※本記事は古典医学と現代医学の知見を比較・考察するものであり、特定の症状の原因や治療効果を断定するものではありません。

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